インスリン発見100周年にあたって

インスリン発見100周年にあたって

糖尿病内科 佐々 真理子

糖尿病はインスリンの作用が不足することによって、慢性的に血糖が高くなる病気です。
今年はインスリン発見からちょうど100周年にあたる記念の年です。近年では糖尿病の病態の理解と治療法の目覚ましい進歩により、糖尿病のある方の平均寿命は、平均的な日本人と同じぐらいになっています。

「この機会に、糖尿病の歴史を少しひも解いてみましょう」

糖尿病の症状は、早くも紀元前1550年に、エジプトのパピルスに記されました。当時推奨されていたエジプトの治療法は、骨、小麦、穀物と土をゆでたものを4日間食べることでした。その後約3500年もの間、糖尿病の理解や治療法の進歩は、非常に遅く、たどたどしいものでした。
糖尿病では、多尿など尿の症状が出るため、長い期間糖尿病の原因の臓器は、腎臓であると考えられていました。1800年代後半になってようやくClaud BernardやOskar Minkowskiらが膵臓が糖尿病の中心的役割を果たしていると確認しましたが、20世紀が明けてもまだ血糖値を下げる神秘的な膵臓の物質は科学的な推測に過ぎませんでした。 1914年からインスリン発見まではAllenの時代として知られており、極端な食事制限をする飢餓療法が糖尿病の子供たちの唯一の治療でした。1921年カナダのToronto大学で、若い外科医であったFrederick Bantingと、当時まだ医学生だったCharles Bestらによりインスリンが発見されました。私も大学卒業後すぐの春休みにToronto General Hospitalに病院実習に行き、その際Toronto大学も訪れ、ここでインスリンが発見されたのだと思うと感慨深いものでありました。1922年14歳のLeonard Thompson少年に世界で初めてインスリンが投与されました。彼はやせと高血糖で死の淵にいましたが、インスリン投与後は劇的に改善しました。インスリン治療が始まる前は、1型糖尿病又は若年発症の糖尿病患者さんは、発症したら数日又は数週間で死亡しており、飢餓療法を受けても数年生存が延びる可能性があるだけでしたが、インスリン治療によってまさに奇跡のように救出されました。その後次々にインスリン製剤が改良されました。

さて、糖尿病は成因で分けると、1型、2型、その他の特定の機序、疾患によるもの、妊娠糖尿病があります。先ほど出てきた1型糖尿病は、膵臓のβ細胞が何らかの理由により破壊され、インスリン分泌が枯渇して発症する糖尿病で、インスリン治療が必ず必要です。
2型糖尿病は、インスリン分泌低下を主体とするものと、インスリン抵抗性が主体で、それにインスリンの相対的不足を伴うものなどがあり、日本人の糖尿病の多くは2型糖尿病です。2型糖尿病患者さんでも食事療法や他の薬剤で血糖コントロールが不十分な場合などで、インスリン治療を導入する必要があります。近年では、より早い段階でインスリン導入することによって、膵臓の機能が回復することが期待され、予後が改善するため、2型糖尿病患者さんでも、より早期に開始されています。

「診療で心がけていること」

ここまでインスリンのお話でしたが、糖尿病の治療は食事療法、運動療法が基本になります。診察では丁寧に問診し、その患者さんの食事内容、嗜好、生活パターンなどをお聞きし、年齢、腎臓など合併症の状態、体格なども考えて、それぞれの患者さんに合ったテーラーメードの治療ができるよう目指しています。
丁寧な問診を繰り返しているうちに、患者さんの方から「今回は悪くなってると思うわ。柿をいただいてたくさん食べてしまった」「最近仕事が忙しくなって、タ食が遅くなって、運動も減ってるし、体重が増えました。悪くなってるんじゃないですか?」「前回受診してから散歩を始めました。良くなってるといいけど。」など、こちらが説明する前に、ご自分で的確にコントロール状況とその原因を考えて話される方が多くなり、併せて改善方法も自ら考えて話されます。

【糖尿病専門外来 食事調査・合併症検査年間スケジュール】

しかし頭ではこうする方がよいとわかっていても、実行するのが難しい場合も多々あり、そういう場合は、その方の現在の状態でできそうなことから提案し、無理せず続けられるよう工夫しています。
100年前にインスリンが発見され、その後数十年以上内服薬もわずかしかありませんでしたが、近年薬物療法の進歩が目覚ましく、非常に多くの種類の内服薬や注射薬が選択できるようになりました。同じ血糖状況でも個々の患者さんの年齢や合併症の有無、低血糖の危険性やサポート体制などにより目指す値や選択可能なお薬が異なり、またお薬への患者さんのご希望も様々であり、それらを考えて薬剤を選択するよう心がけています。
また脳卒中や狭心症、心筋梗塞など動脈硬化症予防には高血圧症、脂質異常症なども総合的に治療する必要があり、これらの疾患も併せて診療しています。糖尿病の合併症はかなり進行しないと自覚症状が出ないものも多く、自覚症状が出た時点ではもとに戻らなかったり、治療が難しかったりするため、当院では各合併症につき、年間スケジュールを使って定期的に検査を行っています。
また血糖が少しだけ高い境界型の方も糖尿病発症予防を行っており、健診などで少し血糖が高いとか糖尿病の疑いがあるとされた方は早めの受診をお勧めします。

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